|
評価:
朱川 湊人
文藝春秋
¥ 1,600
(2009-08)
|
短編集。
少しだけ、これくらいなら起こってもおかしくないかもというような不思議が起こる。
その周りにいる人々をほんのり温める奇跡。
どちらにしてもそれを受けるのは人間
感じ取るのは、その人の心があるから。
読んでいる間はさくさくと読みすすめられる。
さっぱりしているし、情景の描写がとてもきれい。
主人公たちが不思議に出会って優しく変わっていく様子もいい。
だけど、なんとなく心には残りにくかった。
別に奇跡なんて起こらなくても、これくらいならかわってもおかしくないんじゃないかと思ってしまう。
「あした咲く蕾」
命をわけあたえることができる不思議な力を持ったおばさんと久しぶりに再会し、
彼女の優しさに惹かれ、心配する主人公。
本当に好きな人と一緒になっては危険。切なくて温かい話。
「雨つぶ通信」
しょうがない父と離婚し、母に育てられていた弘美。
母の頑張る姿を知っているけれど、新しい彼女の恋人をなかなか許すことができなかった。
雨の降る日に耳を澄ますと哀しい心の声が聞こえるようになった。
全部やろうかと思ったんだけど、面倒になったからあと一つだけ。
「湯呑みの月」
美しく、身体が弱いおばのことが大好きだった睦美。
母はおばとは違いちゃきちゃきとしていてよく睦美のことを叱ったが、
睦美は母の役割やそれが愛情から来ることだともよく理解していた。
事故に遭った母の回復を願うためにおばはおまじないを教えてくれた。
水の入った器に月をつかまえる。その水は甘く変わり、飲めば願いが叶う。
病院から帰ってきた母は変わっていた。
おばから離れるように言い、いつも険しい顔をしていた。
おばの犯した罪、それを許せなかった母。
このお母さんの気持ちはすごく切ない。
病弱でちやほやされてきた妹をずっと見てきた。
だけど、彼女自身が倒れた時に待っていたものは遠ざかる愛情、裏切り。
お母さんがしたことは正しいとは言えないけれど、「どうして私のときは、どうしてあの子だけは」と思う気持ちはよくわかる。