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評価:
米澤 穂信
集英社
¥ 1,365
(2009-08-26)
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すごくよくできている。
ミステリー好きにはたまらないと思う。
物語の全貌を追うのにほとんどの内容を費やされていて、
主人公の心象がほとんど描かれなかったのが少しだけ残念かな。
それでも、なぜ逃げるようにいてそこに留まりたかったのかという彼の背景
失ったものを可南子とリンクさせた過程は見て取れた。
古本屋、菅生書店は菅生広一郎が営んでいる。
その甥である芳光は広一郎の家に居候して彼の店を店番程度ではあるが手伝っている。
その店に、北里可南子という若い女性が現れる。
「叶黒白」という筆名で書かれた短い小説を探しているという。
ひとつは最近持ち込まれたものの中にあった。
それを手渡すと、光義は可南子から奇妙な依頼を受ける。
全部で五編あるはずの「叶黒白」の小説の残り四編を
探してくれないか、と。
叶黒白の本名は北里参吾。可南子の父だった。
昨年亡くなった参吾の遺品を整理していたときに参吾が小説を書いていたことを知った。
読者に結末を委ねるリドルストーリー。
その結末を可南子は見つけていた。
「アントワープの銃声」という事件の犯人ではないかと噂されたのが北里参吾だった。
ベルギーのアントワープ市で参吾の妻、北里斗満子が首をつった状態で亡くなった。
参吾に疑いがかかったのは、その直前に銃声が聞こえたから。
芳光は参吾の小説をいくつか手に入れた後、
その小説が何かに向けてのメッセージを含み、
彼の関わった事件に深く関与しているのではないかと気づいた。
そのため、小説の一遍を持っていた参吾のの友人に詳細な話を聞きに行く。
事件のおかげで彼は世間からひどく誹謗を受けた。
母を失った娘を連れて長野へ移り住む。
しかし、彼はそこで起こった事実をどうしても吐露したかった。
だが、その暴露によって、娘である可南子の将来になんらかの傷が残るかもしれない。
苦肉の策として結末をあえて省いた内容を知人に断章としてそれぞれ送った。
解釈しだいでどうとでもなる結末。
月日が彼の憎しみを薄らせ、さらに大切なものを守ろうと決意した。
可南子はただ、知りたかった。
そして、芳光も気づいてしまった。
誰一人救われることのない真実。
逃げ出した芳光は現実に戻るしかなく、
可南子は亡くなった父ともう会話をするすべはない。
思い出と執着。と、残酷な事実。
米澤穂信らしい終わり方だったなぁ。
ただ、まだ救いがある分以前よりやさしくなってしまったのかも。