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評価:
ほしお さなえ
角川グループパブリッシング
¥ 1,995
(2008-12-26)
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読みたくて、図書館で予約機能を利用したのは初めてだ。
何でこの人あまり有名でないんだろう?こんなにいいのに!
風里は廃屋同然の家に一目ぼれして住むことになった。運命を感じた。
自分で改修をし、草むしりをして整える。
公園近くの植物園で標本整理の仕事をすることになった。
もともと植物が好きで、その姿を刺繍に閉じ込めていた彼女は
丁寧に愛情をもってその仕事に取り組んだ。
過去と現在が入り乱れる。
家に住み着いた夢。
強い才能を持ったために逃れようと願ってもすべをもたない彼ら。
風里は彼らの夢を見る。
偉大な書家、村上紀重。その娘の葉。
特殊な才能と、教育に恵まれた葉。
だが、尊敬する父は脳梗塞で倒れ、書がかけなくなった。
以前の彼の者とは違う奇妙な文字を紙全体に書き付ける。
葉はそれに耐え切れなくなって捨ててしまう。
それが後悔の輪廻の始まり。
風里は日下奏という青年と出会う。
イラストレーター兼陶芸家の彼は独特な完成をもって作品を作っていた。
いい子ちゃんの風里をほぐしていく日下。
有名な漆工芸家、古澤明を父に持つ古澤響。
彼もまた葉と同じような非凡さをもっていた。
建築科に進学した彼はめきめきと才能を開花させていく。
葉と響は出会ってしまった。
精神的ショックが重なり書自体を忘れていた葉は思い出していく。
互いに強く影響しあうあまり、葉は彼女の真の世界を取り戻していく。
彼女が書いたのは晩年の父と同じ不可解な文字の塊だった。
日下の中に流れる血。
夢の中にとらわれてしまい、響の作った架空建築の中に閉じ込められる。
風里は彼を探す。
以前の毒々しさは感じられない。
暗闇は底にあっても、そこから這い出そうと努力する子孫たち。
血縁で閉じ込められた彼らを救ったのは外から来た風里だった。
描写がとてつもなくやさしい。
自然が、人の温かさが、感情が、やわらかくてぬくい。
どこか遠い手の届かない遥から印象だけを捕らえて描いたような小説だった。