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評価:
辻村 深月
講談社
¥ 1,680
(2009-09-15)
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切なくていとおしい物語。
両親の庇護という甘い檻の中に匿われ続けるチエミ。
周囲の人間は、嫌悪感と嫉妬を同時に抱く。
そして、簡単に彼女を切り捨ててしまう。
仲がとてもよかったチエミの母親が包丁で刺されて絶命していた。
同時に行方不明になったチエミ。
幼なじみの神宮司みずほは彼女の居場所を探していた。
チエミの友人、知人、元彼、恩師などにあって
彼女についての心当たりを聞いていく。
誰にも気づかれないような気配りを持つ優しい子。
その裏で強烈に結びついている親子の絆。
無知で不器用な彼女を「格上」の女子たちは軽蔑した目で見ていた。
彼女にとって忌まわしい記憶のある実家を離れて
あっさり「いい人」を捕まえて結婚したみずほ。
女性誌の記事などを書くライターをしている。
合コンを繰り返し、派手な生活を送っていた政美や果歩も
ほどほどに年を取り変化していた。
あの頃果歩にもチエミにも言えなかったこと
「遊ばれているんだよ」言っても聞かないから。
チエミをぽいと捨てた男
昔聞かせた赤ちゃんポストの話
遠い昔に交わした約束
恥ずかしくなる。
私がチエミの友人なら、きっと他の人間と同じように
疎んでしまうと思うから。
もし私がみずほなら、何も知らなかったふりをして逃げてしまうと思うから。
チエミの側から描かれる物語は切ない。
周りから見たらよくわからない彼女の行動も、
彼女の中ではきちんと筋が通っている。
彼女は自身がどんな目で見られているか知っていた。
でも、いつでも正直でまっすぐ。
「格上」の人間が自己保身でごまかすのとは違う。
嘘をつかない、が真実じゃない。
SF要素は一切ないリアルな物語。
どこにでも転がっていそうな人間関係をこうやってばしっと文章に書かれてしまうと身につまされる。
母となったら、チエミは誰よりも強くあれる。きっと。