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評価:
海堂 尊
新潮社
¥ 1,575
(2008-03)
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新しい命が誕生すること。
無事に生まれること。
奇形がない「正常」な人間が生まれてくること。
それがどれだけの奇跡であるか。
数え切れないほどのステップを踏んで、遺伝子はワルツを踊って完成する。
曾根崎理恵は帝華大学産婦人科学教室の助教で、不妊治療を専門としている。
助教の食い扶持だけでは足りないため、ほとんどの大学病院勤務医は非常勤の医者として
外部の病院でアルバイトをする。理恵もかつてから「マリアクリニック」という病院で不妊治療にあたっていた。
大学が独立法人化されるという政府の無意味な政策により、
地域医療は破綻しかけていた。
「病気」でないお産は不測の事態が起こった場合に訴えられる可能性も高い。
そうして、産院は少しずつ姿を消す。
「マリアクリニック」も最期のときを迎えようとしていた。
院長である、三枝茉莉亜の命と同様に。
とてつもなく頭がきれ、冷徹だが深い情熱を秘めた理恵は「冷徹な魔女(クール・ウィッチ)」と呼ばれている。
神の領域に踏み込んだ人工授精のエキスパートというのもその呼び名を高めている所以かもしれない。
かつては理恵とともにマリアクリニックで勤務もしていた清川吾郎は理恵の上司で
帝華大学で准教授を務めている。
頭はきれるが、女たらしで無駄な努力は嫌う。
産婦人科、ひいては病院そのもののあり方、現状、無根拠で自らを死に追いやるような法案を可決させた官僚たち。
生んでくれと願う割には不妊治療には一切の保険が効かない。
理恵は誰よりもその痛みを知っていた。
だからこそ、彼女は大博打に出る。